不死鳥編 「グレッチPX6119テネシアン’64を入手」 

 
 「人生において次のギター購入はないであろう。」
 そう思っていた自分にとって、最近はギター雑誌の広告もネットでの楽器漁りも、遠い過去の話となっていた。

 しかし、2011年を迎えるにあたって、今までに自分がやり残したことを整理していくにつれて、私のギターコレクションの中で、避けて通っていた問題にぶつかったのである。
 それは・・・
「テネシアンがない」ということである(笑)。

 皆さんご存知のように、ジョージは1963年にはこの楽器を手に入れていた。
 カントリー・ジェントルマン全盛期の1963年、
 12弦ギター全盛期の1964年前半まで、
 全くのサブ楽器として扱われていたが、
 1964年10月「フォー・セール」の録音時から、
レコーディング&ライブ最前線に送り込まれることになったギターなのである。
 
 実際今までにも買うチャンスは何度もあったし、値段もそれほど高くも無く、
 レア度もそれほどではない楽器なので、たくさん出会いはあったのだが、
 なぜか今まで「これが欲しい!」と決意させるタマにはめぐり合えなかったのが事実だ。
 それに、カントリー・ジェントルマンを持ってからは「これがあれば十分」という満足感が、かえって私にテネシアンを探すことを忘れさせたといっても過言ではない。

 しかし、転機は2010年に訪れた。
 アメリカの友人が手に入れた’63年テネシアンのあきれるほどの状態の良さに驚き、
「おいらもこれ位状態の良い奴が出たら買おう」
 と心に決めていたのであった。

 さて、年が明けて2011年1月。
 折りも折、ちょうど私が探し始めたのと同時に、一本のテネシアンが売り出し中であることがメールを通じて知らされたのだ。

 ショップは関東圏内の有名店。アメリカから直接の仕入れらしい。
 製造は1964年。
 塗装の状態は極めてよく、バインディングの崩れも全く無し。
 金属パーツも新品同様で、プレイング・ウェアもほとんど無し。
 いわゆる「極上モノ」であったのだ。

 送られてきた画像を見ても、結局は本物を見ないと決心はつかぬ。
 ある日曜日、私は休日割引の高速道路に乗り、ショップに出かけたのであった。

 挨拶もそこそこに、ガラスケース内に鎮座したテネシアンとご対面。
 見れば、楽器の状態の良さもさることながら、ケース内には多数のタグ
(アメリカ人はケース・キャンディーと呼ぶ。なぜだろう?)まで残っていた。

 早速、試奏室に通されて、30分ほどアンプ通しで弾いてみる。
 雑音等は全く無く、クリアーで鋭い、テネシアン特有の音である。
 数曲、テネシアンで弾かれたビートルズナンバーを弾いてみる。
 う〜ん。まさにあの音である。
 ここで分かったことは
「同じグレッチでもカントリージェントルマンとは似ても似つかぬ別の楽器」だということだ。これはジェントルマンでは代用は効かない!
 ジョージがあのとき、サブ楽器だったテネシアンを第一線に格上げしたのは、この音色の必要性に迫られたからに相違ない。64〜65年のジョージは、枯れていながらも突き抜けるようなクリアートーンを欲していたのだろう!
 
 もちろん、それにも難点はいくつかあり、
@ネックが逆ぞり気味
 ・・・ほとんど弾かずに壁にかけてぶら下がっていたせいだと思われる。
Aフレットの高さがばらばらで、あちこちで音つまりとビビリ。
 ・・・リフレットと指板調整の必要性アリ。
  ショップの人は限界まで調整していたようだが、弦高をちょっと下げたら・・・バレチャッタデスカ(笑)。
Bフロントピックアップに、リア用の背が高いモノがはまっている。
 ・・・元々これが付いていたのだろうが・・・改造の必要性アリ。

などといった点である。

 しかし、良さに比べればこの欠点は解決できるレベルである。
 勇気を持って飛び込んでみたのだ。
 購入後そのまま東京のリペアショップに入院。
 ※以前’61ヘフナーのネック接着をしていただいた店である。

 そして約1週間後。
 とうとうリフレットが仕上がり、私の
「ミニ・ビートルズ楽器博物館」に仲間入りとなった(笑)。

 シリアルナンバーは64401。
 1964年の前期仕様である。
 ネームプレート無しのシンプルなヘッドストック。
 ジョージテネシアンと同じペグ。
 何よりも、極めて褪色しやすい色がいまだにかなり濃く残るボディー。
 今まで見た中では一番私の理想に近い個体であった。

 そして、私にもう一つ残ったもの。
 それは・・・そう。毎度おなじみの
60回払いの支払いであった(爆)。
 しかし、生涯の友と出会えた気がして満足のOYOYOであった。

 たぶん、これがわが人生で最後の楽器購入・・・
になるわけないわな、病気だもんな(笑)。 


GretschPX6119"Tennessean" (Very Close to George's Tenny)
('64 Serial No.64401)

 1964年後期仕様からは、
 @ヘッドにネームプレートが付く
 Aペグが三角形の「ヴァン・ゲント製」に。
 などと細かな仕様変更がなされますが、これはまだそれ以前、いわゆる「63年仕様」の64年です。

 グレッチ特有の仕様として、Fホールは空いておらず(ハウリング防止のため)、白で縁取られたFホールがボディーに描かれいます。

 今回、フロントピックアップの高さがリアと同じ高さで、弦が当たってしまうため、
 カバーをはずし、下を削り、内部にあった木製のスペーサーを捨てて、ボディーに戻しました。
 おかげで、リアとの音量バランスもよくなり、一石二鳥の仕上がりでした。

 ブリッジを見ていただければ分かるとおり、オールド・グレッチの弱点である
「ネック仕込みの崩壊」はまだ起きていません。正しい角度でネックが付いているため、こんなにブリッジを上げても弦高はかなり低いです。

 ピックガードをはずしてみました。
 黒いフェルトはボディーとの間に挟まり、振動を吸収する素材。もう一つ付いていた形跡がありますが、紛失。
 グレッチにありがちなピックガードの亀裂は全く生じておらず、最高の状態です。

 ステーとスピードナットの部分に保護用の紙テープ(?)が硬化しながらも付いています。
 これが無いと、透明な素材に裏から塗装されているグレッチのピックガードは、塗装が傷ついて表から見えるようになってしまうのです。(
要するにリッケンのネームプレートなどと同じですな

 ヘッド裏。
 シリアルナンバーは、このヘッドの上の面に刻印されています。

 ペグは、シンプルな構造の丸い頭のタイプ。
 64年後期になると、この頭が
「つぶれたおむすび型」みたいなものに変わってしまいます。

 ちなみに、ナット幅はジェントルマンの41.5ミリに対して、
 テネシアンは43.5ミリ。
 1フレット部分のネックの厚さも、ジェントルマンが21.5ミリに対して
 テネシアンは23.5ミリ。
 流石に、
「紳士」よりも「テネシーっ子」のほうが男らしいネックなのです(笑)。

 ネックの裏の塗装が薄い部分もきれいに残っています。
 ヘッドのくびれ部分の左右に、塗装が溶けた部分が小さく残っています。
 これは、長い期間、壁にとりつけた「ギターハンガー」にぶら下げられたため、
 塗装の膜とハンガーのクッションゴムが反応し、塗装が溶けてしまうというよくある失敗です。

 このことからも、このギターが実際は
「光のあまり当たらない部屋で、壁の飾りになっていたのでは?」
という解釈につながるのです。

 その分、これからたくさん弾いてあげたいですなあ。



 

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