2011年2月その1 「テネシアンのケースキャンディ」 編
2011年に入手したテネシアン君。
あまり弾かれないまましまわれていた期間が長かったらしく、塗装などの状態もかなり良好であった。
このような個体には、新品当時にギターに付随していた保証書や説明書の類、ストラップ、クロス、さらには弦などまでもがケース内に残されている場合がある。米国ではこのようなものを「ケース・キャンディ」と呼んでいる。
ちなみになぜ「キャンディ」なのかとたずねてみたが、まあ、「ちょっとご褒美・もらってうれしいおまけ」的ニュアンスで使っているようである。水着美女の写真を「アイ(目)キャンディ」と呼んでいるし(笑)。
1つめは、このきんきらな札である。
たぶん、楽器店のショールームに陳列されているときに、ヘッドあたりに引っ掛けておくものだろう。
他社の製品からグレッチのギターへ目をひきつけるためにこのような派手派手な札が必要と感じたのだろう。
グレッチ社はこういう場合に「色」にこだわる傾向がある。ギター自体を難しい白色/金色にした「ホワイトファルコン」や「ホワイトペンギン」は言うまでも無く、「ジャガータン」に塗られたギターや「ツートンカラー」に塗られたギターが目白押しである。
2つ目は、「封筒」である。
表に「ギャランティー(保証書)」と書いてるので、元々はこの中に保証書が入っていたのだろう。 先ほどのキンキラ・タグと同じく、「ブルックリン・シカゴ」と「Since1883」というこだわりの文字が躍る。生産者としての伝統への誇り?がうかがえるのだ。この後、ボールドウィン社に会社を売ってしまい、くだらないギターを生産した挙句、品質低下を起こしてしまう会社とは思えない(爆)。
※ちなみに今のグレッチ社は一族がもう一度買い戻した後でフェンダーの子会社的になっている。ギターは日本の寺田楽器が製造中。
3つめは保証書である。
通常使用においてなにか問題点が発生した場合は、3年以内ならば無料で修理しますよと言う、良くありがちな保障内容である。
下には手書きで、モデル番号の6119と言う数字と、このギターのシリアルナンバー64401が書かれていることから、これがこのギターのオリジナルであることが分かる。(当たり前?笑)
わからなのは真ん中の「MAKE」という欄で、何も書かれていないが、本来何が書かれるのだろう?グレッチが作っているのだから、「製造者」はグレッチに決まっているのだが・・・。
4つ目は、丸い「エレクトロトーン・ボディ」カードである。
ひもが付いているので、これもボディーあたりにぶら下げられていたのだろう。
エレクトロトーン・ボディというのは、チェット・アトキンス氏が提案した「Fホールをふさいでハウリングを出にくくし、ブロックを入れてサスティンを良くして欲しい!」という要求を満たすために作られたものである。たぶんギブソンのES‐335あたりの構造を意識しての提案だろう。
だが実際には保守的発想を捨てきれないグレッチ社は「そんなのギターじゃない」などと因縁を付け、Fホールはふさいだものの、中身はまったくホローボディーのままだったのである。
ちなみに、彼らはギブソン社が初めてソリッドボディーの「レス・ポール」を発売したとき、
「天下のギブソンがあんなものを作るなんて・・・あれじゃフェンダーじゃないか!!」
と怒ったそうだ(笑)。その後、時代の波に押され、しぶしぶ「デュオ・ジェット」を作ったもの、どうしてもソリッドボディーにしたくなかったらしく、見た目はレスポールそのものだが、中身は大きくくりぬかれていて実際は「セミ・ホロウ・ボディ」であった(爆)。どこまで保守的なんだろう・・・。
5枚目は「3NEW」(さんにゅう?笑)カードである。
当時のグレッチ社が他社に先駆けて採用した機能を、誇らしく謳っている。
1つ目は「スタンバイ・スイッチ」である。
ボディーの下側に3ポジションのスイッチがあり、弾かない時にはこれを真ん中(ニュートラル)にしておくと音が出ないようになる。アンプの電源を入れたままギターを放置したときのハウリングなどには便利だろうが、実際は、これを入れないまま「あれ?音が出ねえ!」とかあわてているギタリストを見たりする。
2つ目は「ミュート」である。
カントリージェントルマンや6120などに採用されている、「スポンジで弦をミュートする機構」であるが、使っている人を見たことがない(笑)。
※第一、テネシアンにはこの機構自体搭載されていない。
3つ目は「バック・パッド」である。
カントリージェントルマンや6120(またか…笑)には、ボディー裏に黒く丸いパッドが装着されているが、コレを見ると「立ったときにギターがずれにくく、バックルなどから塗装を守る」ことが目的だと分かる。実際には、ミュート機構をボディ内に取り付けるためにボディー裏に穴を開ける必要があり、その穴をふさぐためにプラスティックのふたをつけ、さらにそれを隠すためにパッドが必要だったと・・・正直に言わないか!!正直に!!
6つ目は「OKカード」である。
製造されたギターは最終的にチェックを受けることになる。
10階建てだった当時のグレッチ・ビルディングの9階に、品質管理の部署があり、そこにDan Duffy氏がいた。
彼は1956年、24歳のときに入社した。ジャズを勉強していたギタリストで、ちょうどグレッチを使っていたサル・サルバドールの弟子だった。グレッチ社は品質管理をするために若いギタリストが欲しかったので、彼を採用したのである。
彼は長期にわたりグレッチギターの品質管理を手がけてきた。このOKカードのサインを見ると、上に青いペンで型番6119と、
※途中の項目の部分はチェックすらされていない。たぶん生産本数が爆発的に多くなった1964年であるので、省かれたのだろう。
下に”Duffy”と名前が書かれているのが分かる。
もしも仕上がりにおかしな点があれば、すぐに階下にある木工部門、塗装部門、金属パーツ部門にギターが戻され、直される仕組みになっていたのである。当時は彼は32歳。油が乗り切ったところだったろうが、当時を振り返り「たくさんの品質上の問題が生じたが、とても優秀なスタッフがおり、みんなで問題の解決に取り組んだ。大きな家族みたいだった。」と語っている。
7枚目は「ハイロ−トロン」カードである。
グレッチの当時の最近ピックアップはハムバッカータイプの「フィルタートロン」であった。高級機種に搭載され、金メッキされた見た目の豪華さとそのリッチな音色で評判だったのである。
さて、グレッチの工場内でピックアップを自社生産していたのだが、その中の技師の一人が、フィルタートロンのボビンを一つにし、シングルコイルのピックアップを試作したところ、
※もしかして「コストダウンの指示」でもあったのか?
出力が低下した分、音色が非常に個性的になり、きらびやかになった。これを会社側も「いいねえ」と認め、正式採用となったのである。
このような生まれのため、シングルコイルなのに大きさはハムバッカーと同じ(コストダウンのため?)という不思議な見た目となった。そのスカスカ感を弱めるため、黒いプラの飾りプレートに金の(また出た!)「Gマーク」を印刷したのだが、これがめっぽう落ちやすく、ほとんどのテネシアンでは消えかかっていると思う。
さらにチープ感を消そうと思ったのだろうか、このような豪華な説明カードを付けたのだろう。ハイロートロンの「よさ」として7点を挙げている。
1 9つのプリセットトーン
2 ”ハイ‐ファイ”なフルレンジの音色
3 ステレオ・シンギング・トーン(訳せん…”立体的に歌う音色”?)
4 きらびやかな高音域
5 柔らかで美しい低音域
6 超近代的スタイル(笑)・・・Gマークのことか?
7 特別に生き生きしたレスポンス
しかし、内容は、べつにハイロートロンの説明ではなく、ギターのトーンコントロールに関する説明なのだ(笑)。
簡単に言うと、内容は
3つのボリュームの説明(マスター・フロント・リア)
ピックアップセレクターの説明(フロント・ミックス・リア)
トーンセレクターの説明・・・真ん中がニュートラル(フル10)
手前が「ディープベース」トーン(トーンを絞った状態)
後ろが「ミディアム」トーン(トーンを半分絞った状態)
これを組み合わせて9種類のプリセット音を作れる・・・という、至極当たり前の説明である。
ただ、チープな設計と仕上がりにもかかわらず、「音だけは良い」という本質は大切である。
きっと数ある「ビザールなのに生き残ったギター」というのは、こういう本質だけはしっかりと持っていたに違いない。
8枚目は「アクションフローナット」の説明である。
実際には「0フレット」のことなのだが(笑)。
説明をみると、0フレットを採用したことにより、ナットの高さがどうであれ、「フレットレベルでの演奏が可能」と書いてある。確かに、もしも0フレットが他のフレットと同じ高さだったら、そういう説明もあっているかもしれない。しかし、本当にそんなことをしたら・・・ギターはビビリまくりで演奏不能に陥るだろう。実際この0フレットも他のフレットよりも高いのだ。しかしこれも「もう一つのグレッチの革新」と謳ってはばからないのが、グレッチのおおらかで良いところである(笑)。
9つ目、最後は「純正のギタークロス」である(爆)。
決してきれいとはいえないが、普通使用されれば捨てられてしまうような消耗品である。
これがちゃんと残っているあたり、「流石USAのアンダー・ベッド・ギター」としか言いようはない(笑)。
アメリカでは、子供時代にギターを買ったものの、いつの間にか弾かなくなり、そのままの状態でクローゼットに置かれたり、ベッドの下に放り込まれたりしたものも多いらしい。それらが、昨今のヴィンテージギターの価格高騰により、
「そういえば、あのギター、どうしたっけ?」
と持ち主の注意を喚起することになり、発見され、市場に出回ることとなるのだそうだ。
だから、高価なギターほど、ミント状態で出てくるのは難しいのだ。高ければ忘れることもないし、すぐに売ってしまったり、人に貸してしまい、消耗してしまうからである。
安いギターなら、買ったまま忘れ去られることも多く、売っても金にならないと思い込み、そのままクローゼット内に40年間放置・・・などということが起きるのだ。
カントリー・ジェントルマンのミントなどは全く出てこず、逆に半額のテネシアンがミントで発見されたりするのはこの理由からなのだろう。
どちらも、現在の日本では考えられないことであるが。
「そういえば、押入れにたしか子供のときに買ったTEISCOが・・・」
なんて話、ギターが「不良のアイテム」だった日本では考えられませんね・・・。残念。