老年期T 「リッケンバッカー4001sを買う」 の巻

 東京の某楽器店Dには、以前にヘフナー500/1の20/40Aniv. を購入して以来、
 時々遊びに行くようになった。

 ここで売られている
楽器は高いものが多く、なかなか手が出ないが、
 
店長のキャラクターがとても個性的であることと、
 
本物のVOXアンプがごろごろ置いてある空間に、
 ついつい惹かれてやってきてしまうのである。

 ある夏のこと。
 「プレイヤー」誌でその店の広告を見た。
 
※これがオールドギター好きの習慣であったことは諸兄も理解されるであろう。
  あのころはネットも今ほど普及していなかったのだ…。

 
 そこには、リッケンバッカー4001の
オールドが掲載されていた。
 わたしは目を疑った。「こんなの売ってるのか!すごすぎる!」と。

 ヘフナーのオールドでさえなかなかお目にかからない昨今である。
 
コレクターが秘蔵していてなかなか出てこないはずのオールドのリッケンが?
 それも’64年の?ポールのリッケンと同じ年じゃないか!!
 価格の欄はもちろん「¥ASK」であった。そりゃ書けないわな…。どうせ高いもん…。


 わたしは一目だけでも見たいと思い、ある休みの日、東京に向かった。

 いつもの乗換駅をとおり、2時間以上かかってやっと店についた。
 (といってもこの店の開店は午後なのだが。)
 店に入り、あいさつを交わし、奧の壁面を見ると、はたして、そこにリッケンの
4001S
 (ヨーロッパ仕様なので正式には
ローズモーリス1999と呼ぶべきか。)が掛かっていた。
 色はファイヤーグロー。

私「すごいっすね。これ。」
店長「ええ、でも安いですよ。あるアーティストの(北欧のグループ、カーディガンズらしい。)放出品です。
 その人、日本に公演に来た時に自分で持ってきた楽器を、売っていくんですよ。
 だから関税かからないので安いんですよね。」
私「いくらぐらいなんですか?」
店長「○○万円ですね。(中古車が余裕で買えるほどの金額)」
私「…。」
店長「どうです?弾いてみますか?いいですよ、弾いても。」(と、楽器を私に渡す。)

 初めて触った
本物のリッケン。
 自分のリイシューと比べてみると(大げさにいえば)
重量は半分くらいの気がする!
 ネックは
異常に薄く、(細くではない)ボディーシェイプはやや細身である。

 こいつが安いのには先の理由以外にいくつかの原因がある。

 まずはネック裏が再塗装してあること。それにそれがいかにも素人っぽくていけません。
 さらに、ブリッジ下にザクリがあること。これは元の持ち主がデッドポイントをずらそうとしてブリッジ位置をやや前にずらすため、ミュート・システムの逃げを造ったらしい。

 この2点でずいぶんこの楽器は痛めつけられているのだ。だから安いのである。
 
 結局この日、私は巨大なフライトケースに入った4001をもって電車に乗ることになった。
 
 なんて
馬鹿な買い物を…という自分を責める気持ちと、
 「ここで買わなきゃ
一生買えねえ…。」という、オールドギターコレクターにありがちな自分への言いわけ?
 がせめぎあった結果である。

 そして、数日後、リイッシューの4001は資金回収のために売却される運命となった(笑)。
 
 シリアルbヘ
DK578
 1964年の11月製造である。(ポールのはDA。)

 例の悪名高きトラスロッドは抜いて修正してみたが、それとは関係なくネックはまあまあ安定している。
 今後は、ヘッドをどこにもぶつけないように注意して維持していくのみである…。
 なぜなら、ナットの下の部分は2本のトラスロッドを仕込むために大きくくりぬかれており、一撃でもげる構造になっているからである。



RICKENBACKER4001s(1999) As owned by Paul
('64 Serial No.DK578)

←ヘッドはこんな状態。
 キズはかなり多いです。ネームプレートは「n」の文字の尻尾が斜めに流れるいわゆる
「流れN」
 練馬のW様にも見ていただきましたが、やはり本物のようです。
 リッケンのネームと平行に’MADE IN USA’が書かれています。
 ナットはギター用の黒いナットを2枚貼り合わせたもので、ジョンの最初のリッケン325(V81号機)もこの幅だったらしいですね。

 ペグはこの当時多かったクルーソンタイプで逆巻きです。かなり消耗していてガタが出ています。
 ので、チューニングにはやや不安があります。
 
 それにしても、美しいヘッド・シェイプです。
 波頭をモチーフにしたらしいですが、秀逸ですよね!
 私のヘッドは左の耳部分のウォルナット色が薄いので、ちょっと印象が違って見えます。
 
 ヘッド裏もスルーネックの部分はリフィニッシュ(それも醜い)されています。
 何でこんな色にしてしまったのでしょう?
 もしかすると、ネック・アイロンを掛けて修正したために、塗装がだめになってしまい、
 それを誤魔化すために目潰しの色を塗ったとも考えられます。トホホ…。
 いつか正しい色に直して差し上げたいですね。
 

→ボディのほうはオリジナルの塗装に薄くオーバーラッカーされているようです。
 元の塗膜は非常に薄いようで、どこかに当てるとすぐにはげてしまいそうです。
 
 フィンガーレストのネジ穴がなかなかいけてますね! 
 
 リイシューなどのボディーに比べると、ボディーの「コンター」部分が大きく取られていることに気づきます。
 角部分のエッジも鋭く、さすがにオリジナルの風格があります。
 
←また、ボディーの角々の部分が「べベル」加工されています。
 これは、エッジを丸く加工するのではなく、角の部分を角度をつけて加工するやり方。大変手間がかかったと思います。

 ホース・シュー・ピックアップはメッキが落ちているばかりか、
 磁力まで落ちており、出力はきわめて小さいです。
 ※強力磁石(ネオジムなど)を近づけると音量が増すので、
 それで何とかしのいでいます。

※後に別のマグネット(ラップスチール用www)と交換。現在に至る。
 もとのマグネットは再めっきして再磁化。しかし、専門の人でも、この磁石(素材がほぼただの鉄…ちょっぴりタングステン)を再磁化するのは難しいそうです。

 リッケンのシリアルbデータベースにしているある人のHPを見ると(元々ベースの登録は少ないが)、
 1964年に4001が作られたピークが2回あり、1回目は
DD402〜460の間(4月)と、DK575〜580の間(11月)がそうである。
 合計で22本らしい(少ない!)
 作業効率を考えると、ある程度の本数をロットで流しただろうから、私の578のシリアルも本物であることが十分考えられる。
 575号や580号などの兄弟の写真が見てみたい。

この楽器の最新情報はここをクリック!