老年期U 「ギブソンSG‐Std.を買う」 の巻

 ジョージが使用したギターの中で、異色な部類に入るのがこのSG-Standardであろう。

 ジョージはビートルズ後期、色々なソリッドギターを使用するようになる。
 例えば有名なのは、ヘルプあたりから使い始めた「ソニックブルー」のストラトキャスター
 (後のあの
「ROCKY」)、
 E・クラプトンから譲り受けた57年型レス・ポール
「LUCY」(改造品)、
 そして映画「Let It Be」の中で弾いていた
オール・ローズのフェンダー・テレキャスター(特注品)である。


 しかし、数あるジョージの使用ギターの中で、
 持ち主とともに1966年に来日したギターは何であろう?
 それはメインギターのエピフォン・カジノ、2本目のリッケンバッカー360・12、
 そして、サブギターとしてSGスタンダードだったのである。
 それだけ彼はこのギターを気に入っていたということだろう。
 
 彼は実際にこのギターを「ペーパーバック・ライター」のプロモ映像の中で使用したり、
 「ヘイ・ブルドッグ」の録音に使用したりしていた。
 
彼のギターは64年型のSG(ソリッド・ギターの頭文字)であった。

 このSGは、例の私の町のオールドギター・ショップで購入した。

 当時はまだそれほど人気もなく、値段が高騰していなかったので、
 
非常に安かったと記憶している。

 これは
65年製で、ジョージのよりもやや新しい。

 ピックアップは「ナンバードPAF」と呼ばれるハムバッカ-で、
 例の「高価な」レス・ポールに搭載されているものとほぼ同じ設計である。
 また、ヘッドにある「クラウン・インレイ」はこの時期過渡期にあり、
 私のはやや下(ヘッド中央)に入れられているが、
 ジョージのはもう少し上である。それ以外は基本的におなじ構造である。
 
 とにかく、この見た目の
ごつさが天下一品である。
 まさに
「ツノ」と呼ぶべきボディー上下の突起。
 そしてなんとも単純な構造のトレモロ。最近リイッシュされるなど、人気はまだ衰えていない。

 音はといえば、とにかく
でかい!でかすぎる!
 またネックが異常に薄く、弾きやすいんだかなんだか分からない。
 ボディーはチェリーレッドに塗装されているが、私のはそれに
無数のクラックが入っている。
 また、レス・ポール氏が気にいらなかったという、フロントのピック・アップの音については、たしかにそんなにいい音ではないかも。
 どうも取り付け位置が悪いらしい。
 倍音の出る位置から外れているからだろうか。


GIBSONSG-Standard (Just like George Harrison Owned)
('65 Serial No.259467)

←ヘッド角度は17°。
 (この時期、他のギブソンは14°に移行していますが、SGだけは元のままだったらしい。)
 クラウン・インレイが普通の65年製よりもやや下にずれているのが特徴。この時期は仕様の過渡期で、両方のパターンが混在しているようです。

→ヘッドの裏側を見てみましょう。
 おなじみ「ふたこぶクルーソン」チューナーが使われていますが、60年代前半のものと比べると、こいつのつまみは全く縮みません。
 「KLUSON DELUXE」という文字がケースに打たれていますが、64年までのいわゆる「一列クルーソン」ではなく、左右に分かれて打たれている「2列クルーソン」です。
 ヘッド全体の大きさはかなり大きめに作られていて、レスポールスタンダードなどよりもかなり大きいです。これも、前モデルよりも豪華にしようとする意図があったのでしょう。

 ナット幅は42ミリ。ほぼこの当時の標準的なネック幅だと思います。
 ただしネックの厚さはかなり薄めにできているので、ハイポジション方向の弾きやすさはかなり良いようです。


←ネックジョイントは凝っていて、いい感じです。
 ヒールの部分を良く見てください。
 ネックを取り付ける際に、ボディー側の木材を薄く残しておき、その上にネックをジョイントさせているのです。
 このおかげで、ちょっとの段差はありますが、ネックからボディー裏への形をよりスムーズな形状に整えているのです。強度的には接着面が増えるとはいえ、たいして変わらない部分ですので、要するに見た目を向上させるために一手間かけた、ということでしょう。

→フロントピックアップを外してみましょう。
 こんな感じにキャビティーが掘られています。
 ピックアップの裏側には、黒い小さなステッカーが貼ってあり、ここに特許番号「パテントナンバー」が書かれています。
 もっと後のものになると、このステッカーの代わりに本体の金属に直接番号が打たれるようになるので、このピックアップのことを「ナンバードPAF」と呼んで区別しているようです。




→マエストロ・ビブラートも健在です。
 大して使わないのですが(笑)。ついているだけで存在感が増すという、そういう小道具だと思いますね。 
 ギターとしては、実際には人気が出ずに短命でしたが、私から言わせればこのボディシェイプでも申し分なく、私は大好きです。
 ここ最近、SGのブームが来て、値段が急激に上昇してきました。
 私が手に入れた当時は20万円台でしたが、今では数十万、状態によっては100万を超えて売られているものもあるようです。なかなか手が出ない楽器になりつつありますね。

←最後に、ケース写真も。
 こんなやつれたケースに入って来ました。
 内張りは黄色で、どうも仕様によると63年頃のケースだそうです。中身と入れ物が入れ替わった?可能性ありです。
 ステッカーやロゴから考えると、サウスダコタ州のRAPIDという場所にあったALESHIA SOUNDという会社が貸し出し用として使用していたようです。
 この楽器の長い遍歴の中で、もしかして有名ミュージシャンか何かが使っていたら楽しいですよね。