PCS3042「"Please Please Me"（stereo）」の巻
　
"Please Please Me"
Release：April 26th,1963

Tax Code：ZMT
Jacket: Ernest&J.Day


　「Please Please Me」モノラル盤が売り出されてから約１ヵ月遅れで発売されたステレオ盤である。

　思うに、当時のファンで、ステレオ盤を買ったのはどういう人なのだろう？
　家に質素なプレーヤーしかなく、ステレオ盤を聴くことができなかった人で、もしこれを買ったとしたら、かなりコアなファンだったに違いない。まったくの無駄であるが、それでも「ステレオとモノの両方ともそろえたい」という情熱を持ったファンが購入したのだろう。大人で、ステレオ・ハイ・ファイ装置を持った人で、さらにビートルズのファンだったという人はきっとそう多くなく、もしステレオを持っていたとしたらかなり上流階級の家庭の子女に限られたはずである。
　事実、ファースト・プレス（Gold&Black）のステレオ盤は少なくて８００枚、多くともそれに数百枚上乗せした程度しかプレスされておらず、これのコンディションの良いものを手に入れようとすると数十万円の出費を覚悟しなければならない。

　さてこのステレオであるが、私のような「東芝ＥＭＩ世代」にとってはこっちのほうが「通常盤」であり、モノラルをはじめて聴いたのは実際にはＣＤ化された時だったのである。その時、最も驚いたことはタイトル曲「Please Please Me」の違いであった。
　ワシントンＤ．Ｃでのコンサート時、ジョージはこの曲のミドルエイト部分を
「ドー↓シー↓ソー↑ラーラ↓ソーソー↓ミー」
と演奏しているが、これは東芝のステレオＬＰで聴いていたのと同じフレーズなので、不思議にも思わなかった。ところが、後年モノバージョンを聴いたとき、
「ドー↓シー↓ラー↓ソー↑ラ↓ソーソー↓ミー」
と演奏していることに気付き、その時初めて「演奏違い」に気付いたのである。
　しかも、ステレオ版では「半笑い」で歌っていたジョンが、ステレオ版では歌詞間違いも少なく「まじめに」歌っていることに気付き、驚いたものだ。

　当時の私は、「このアルバムはライブ録音された”一発録り”アルバムである」と信じきっていた。
　今ならばそんなことはないと理解できるが、無知というのは恐ろしいものである。
　実際には「あのアルバムはほぼ１日で録音され、その後何日もかけて編集されたアルバムである。しかも、ステレオ盤はモノ盤よりもさらに遅れて、メンバーも知らないうちにミックスされたのである。」というのが正解ということだ。何度も演奏されたバージョンをいいとこ取りしてつなぎ合わせ、それに編集パートを重ね録りして行く・・・ごく普通の作業である。その際に、モノ・バージョンとは別の編集が行われてしまい、ヴォーカル違いやギターの演奏違いを生み出したのである。当時は、メンバーもそのあたりの作業のことは詳しく知らずにいたであろうし、実際にステレオが発売された時には既に次のアルバムの製作にかかっていたのだから、もしこの違いに本人たちが気付いたとしても、「こりゃだめだ、やり直せ」とはならなかっただろう。
　個人的にはこっちのステレオ「間違いバージョン」の方が好きだという人も多いはずだ。

　また、ステレオといっても「左チャンネルに演奏、右チャンネルにヴォーカルとそのマイクが拾ったルーム音」という、不完全ステレオなので、使いようによっては「演奏無しのボーカル」とか「ボーカル無し（エコーは聞こえる）の演奏」とかを楽しめたのだ。ただし、ヘッドフォンで長時間これをやっていると、片耳だけ圧迫されて気持ちが悪くなるので要注意（笑）。


レーベルの変遷については、以下のようである。

タイプ１－Ａ・・・ゴールド＆ブラックパーロフォンで、「I Saw Her Standing There」などのクレジットが「Dick James」のもの。
　　　　　　Ｂ・・・同じくゴールド＆ブラックで、上記の曲のクレジットが「Northern Songs」のもの。
　　　　※このＡＢが両面で混在している盤もあるらしい。
タイプ２・・・イエロー＆ブラックで、（ＹＥＸ．94）の右横に小さく「３３１/３」表示があるもの。これが最もレアな盤であろうと推測される。
タイプ３・・・イエロー＆ブラックで、タイプ２の「３３　１/３」表示が取り除かれたもの
タイプ４・・・タイプ３に「RECORDING FIRST PUBLISHED 1963」表示が追加されたもの（写真のラベル）これが「通常盤」と呼ばれるもの。
タイプ５・・・タイプ４に「ＳＯＬＤ　ＩＮ　Ｕ．Ｋ～」（いわゆるリマーク）が追加されたもの。１９６４年２月以降のプレスである。
オリジナル１９６３年盤を求めるならば、タイプ４までを目安に探すと良い。

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