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1994年8月。1回目の渡英・・・

8月23日(火)
 ニューキャッスルのクレア邸。午前中は激しい雨と風のため、外出を差し控えて家で過ごす。
 ちょうどこの頃、私は便秘に悩まされていた。慣れない外国暮らしで(といってもまだ10日間だが)食べ物なども変わったせいか、お通じが無くなってしまったのだ。私が「どうも腹が…」と恥ずかしながら秘密を打ち明けると、父デイビッドが「そんなに長く腹の中にしまっておいたのなら、いっそ鉛筆の芯にすればいい」と、わけのわからないブリティッシュ・ジョークを言うではないか。唖然とする私を尻目に、クレアとデイビッドは長時間笑い転げていた。クレア母は
「Disgusting!!」(うんざりよ、もう止めなさい、の意味か?)とか、「Oh,myGosh」とかいいながらも少し笑っていた。人の便秘でここまで笑えるって一体…。
 午後は、イギリス最大級のショッピング・モールである、「Metro Centre」(メトロ・センター)へ買い物に出かけた世話になった人々への土産を買い揃えた。
 夜は、先日T氏の釣ったニジマスを食べ、今で言うところのシネマ・コンプレックスへ出かけた。当時、「マーベリック」(メル・ギブソン?)が新作映画でやっていたので、それを見た。半分ぐらいは笑いどころで現地人に遅れずに笑えた。当時の自分の英語力を今復活させて欲しい気分だ。
8月24日(水)
 早起きして、海辺を北上するコースでドライブに出かけた。まずはアンブルという町の古城へ。歴史を感じさせる廃墟である。
 さらに北上してAlnwickを通過し、大きな城のあるBambourgh(発音上はバンブラーと聞こえたが…)へ。この城は海辺の丘の上に建ち、今でも一般市民がアパートとして?居住しているらしい。城を維持するお金を捻出するためらしいが、こんなきれいな場所ならおいらも住んでみたい…そう思わせる場所であった。

 この城がBambroughの城である。いかにも「北方の守り」といった感じがすばらしいではないか。異民族との戦いに明け暮れてきた古代・中世のイギリスを彷彿とさせる。この城の裏手?に回ると、そこは海岸であり広い砂浜が広がっていた。もちろん、海は北海。ふと見ると、向こうのほうから乗馬を楽しむ人々が。いかにもイギリスらしい景色を堪能させていただいた。
 その北海を眺めていたら、無性に海に入りたくなってきたのだ。もう二度とこの海を見ることは無いかもしれない。ここまでの旅のことを振り返り、ちょっとセンチメンタルな気分にもなっていたのだろう。私とT氏は、我慢しきれずにやおら靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、しまいにはズボンも脱ぎ捨てて、パンツ一丁の体で夏の北海へと飛び込んでいったのである。見にくくて申し訳ないが、3枚目の写真は海に向かっていくT氏と私の後姿であり、クレアがあきれて見守っている姿が写っているのだ。
 さて、この城を見学したあとはT氏が楽しみにしていたイベントがあった。そう、先ほど通過したAlnwickに戻り、伝統の釣竿メーカーである、ハウス・オブ・ハーディーの工場見学に参加するのである。
 T氏はこの当時フライフィッシングに非常に凝っており、自分で毛ばりを創作するなどしていたほどであった。そんな彼が、憧れの竿工場を放っておくわけが無いのだ。我々もそんな彼に同行したのだが、工場併設のミュージアムではイギリスのつり文化の奥深さを痛感する展示が見られた。また工場でも、小さな部品までが全て手作り作業で組み立てられ、しかも会社名を手書きで竿に書き込むおじさままでいるのだ。感心してしまった。これなら値段が高いのもうなづける。T氏はこの日、ショップで500ポンド(当時の金で7万円近く)の竿を購入し、ご満悦であった。
 この日の夜はニューキャッスルに戻った後、「エリザベス1世バンケット」と呼ばれる、夕食とショーが一体となったイベントに、クレア家全員とともに参加した。これは古い城で行われ、1500年代のコスチュームをつけた出演者たちが色んな台詞をしゃべる中、中世さながらに手づかみで料理を食らうという、まさに体験型テーマパークであった。途中で歌あり、コントありといったイベントで、料理も美味く、満足であった。
 この日まで、何から何まで世話になったクレア家ともこの日で最後であった。明日は日本に向けて帰途に着くのだ。本当になんと感謝を言ったらよいか、10年経ったいまでも思いつかない。みんなが日本に遊びに来てくれたときには、全身全霊をもってもてなそうと思っているのだが、いまだに実現していないのだ…。