アナログ盤奥の細道「復活編」
2010年1月「Odeon盤single"PleasePleaseMe"のインナー」の巻

 
 十数年前ごろか。T市にある「うぐいす堂」という中古レコード店に立ち寄った。

 この店はまだ私がお金をたいして稼いでいないころ、新品のレコやCDが買えないときに良く立ち寄った店なのである。 現在も営業をしているとは思うが、ここ数年は行っていないのだ。
(こんなことを書いていたら、明日にでも行きたくなってきました 笑)

 ここの主人は本当に話好きで、マニアックな話や、ビートルズ現役時代のレコード業界のことを、レコのカッティングやその他専門的なことも含めて事細かに教えてくださるのだ。(たしか、業界に勤めていた時期があったとかなかったとか…)そのため、たった一枚のレコを買うために数時間を費やすこともしばしば(笑)。いや、中古レコード店というのは本来そういう店であるべきなのだ。
 
 ちょうどその日も、なにか安く手に入るビートル関係のレコを探して立ち寄ったのだと思うが、「ビートルズ」の札のところを熱心に見ている私に店主が話しかけてきた。
「どうせ買うんなら、こういうのを買ったらどうだい?」
 そういうと、このシングルを差し出してきた。
 それまで、安い中古に興味はあっても、わざわざ古いレコードを買おうなどとは夢にも思っていなかった私は正直戸惑った。
「これ、何すか?」
「何って、ビートルズの日本版のシングルだよ。当時ものだよ。」
※まだいまいちわからない私。
「これって何か貴重なんですか?」
「こうやって、ピクチャースリーブが残っているのを見つけるのも結構難しいんだよ。」
 たしかに、ほかにも同じような印刷の古そうなシングルが数枚あったが、よく見ると「カラーコピー」のスリーブだった(笑)。もちろん、ちゃんと「スリーブはレプリカ」って書いてあった。
「色あせちゃうから、日に当てないように大切にしまっといて、誕生日とかそういう日だけ取り出して聴いたらいいじゃない?」
※その後いつものよう長いためになるお話を聞きました。
「そんなにいうんなら、買って見ようかな。」

 結局、その日はこのレコだけを買い、家路に着いた。

 家に着き、よく見てみると、確かに長い歴史をくくりぬけてきた貫禄のようなものを感じる。それだけではなく、クローバーをデザインしたTOMOHIROさんのサイン入り(笑)。
 ターンテーブルにかけてみると、いかにも昭和を感じさせるなかなか個性的な音である。これも面白い。
 スリーブの内側には、日本のD.J.の草分け的存在である、あの高崎一郎の書いたビートルズ紹介文が。なになに…。
これが傑作!
 ちょっと内容を紹介すると…(注:色変え強調は私による)
「紳士の国に
騒音爆発! びっくりなさるかもしれませんが、ビートルズ旋風を表現すれば、これが最も適切なことばだと思います。”紳士の国”とはイギリスのこと、そして”騒音”の主はTheBeatlesです。
 TheBeatlesは、揃って髪をマッシュルーム・カット
(キノコ型の髪型)した、4人の若者たちのグループです。穏やかで上品なイギリスに、原子爆弾を思わせるキノコ状の頭をして爆発した面々は、ジョージ・ハリスン(リード・ギター)、ジョン・レノン(リズム・ギター)、ポール・マッカートニィ(バス・ギター)ロリンゴ・スター(ドラムス)。この4人の原爆青年たちの作り出す音は、音楽ではなく、騒音に過ぎぬのである、と顔をしかめる御仁もいますが、しかし、イギリスの若い人たちの間に人気沸騰というところです。
 デビュー曲は”LoveMeDo”。初めはリヴァプールのヒットパレードに顔を出すくらいだったのですが、1962年10月、一躍、彼らの売出した
キノコ雲はイギリス全国を覆ったのです。D.J.や音楽評論家はこぞってTheBeatlesを褒め称え、NewMusicalExpress誌の読者は、1962−63の人気投票で、TheBeatlesを驚異的なハイ・ランクにまで進出させました。文字通り爆発的な人気です。
 TheBeatlesは、ドラムと
電気ギターと、時にハーモニカを使って”騒音”を作り出します。演奏する曲はたいてい、連中の中のレノンとマッカートニィが作曲します。このレコードに収められている2曲も2人の作品ですが、今から着実に発表して行っても1975年!!までは困らないほどの沢山の曲を既に作っているそうですから驚かされます。”自分のことは自分でやる”のがTheBeatlesの主義。TheBeatlesは、無尽蔵のエネルギーを秘めた原爆、いや水爆です。」

 何をかいわんや(笑)。
「ロリンゴ・スター」はまあ笑って許すとしても、ビートルズを「連中」呼ばわりし、さらに「原爆」「水爆」「きのこ雲」と、徹底的に爆弾扱いしているのが面白い。当時(このレコの発売は1964年3月)は、冷戦にケネディー暗殺に力道山の死など、暗い話題も多かったであろうから、ビートルズの日本デビューというめでたい出来事においても、なにやら
暗い戦争のイメージが付きまとったのか…。
 しかも、1975年まで困らない曲を既に作曲…マジか??…「自分のことは自分でやる」…
小学生か!突っ込みどころ満載である。

 その後の、詩の日本語訳は名訳であるが、紙面の関係で省略(爆)

 私の「中途半端なレコード集め」の原点でもあるので、大切に保管していこうと考えている。ちなみに、
Odeon盤はこれ以降は一枚も買わなかった(笑)。
 盤は黒いので、初版ではないだろう。確か、初版ものは
「赤盤」なはず。これは黒盤。
 マトリックスナンバーがちゃんとUK盤と同じことに注目(そりゃそうか)。
 それ以外に、盤面にJISマークが打たれているのが泣かせる。
 スリーブ裏にはオデオンのレコードの広告があり、(ヘレン・シャピロ、アダモ、クリフ・リチャードら)レコの値段は330円と記載されている。