アナログ盤奥の細道「復活編」
2009年12月「EMITEX君とはいったい誰なのか?」の巻

 
しばらくサーバーの容量オーバーのために削除していたのだが、サーバー引越しにより、少しゆとりが出来た(笑)。
 そこで、もう一度,「アナログ盤奥の細道」に取り組んでみようと思ったのである。
 以前は、自分の持っているレコードを一通り紹介して終わり、的な、いわゆる「こんなの持ってますよ」サイトでしかなかった。
 しかし、レコードのヘビーコレクターはこの世にたくさんいらっしゃるので、数でかなうわけもなく。
 そこで反省を生かし、
少しは他の人の載せていない情報を載せられればと思う。
 ※ということは更新はほとんど望めないということか(爆)。

 そこで記念すべき第1回はレコード本体ではなく、「インナージャケット」に触れようと。(笑)

 ご存知のように、2009年9月9日に発売された「ビートルズ・デジタル・リマスター」のうち、MONOボックスのセットは、
UKオリジナル盤をジャケットからミニチュア化するという、マニア心を刺激しまくりの仕様で発売された。
 そのとき、このレコードを入れる「インナー」までもが復刻されたのである。
 マニアにとってはこういうところがくすぐられるのである。EMIの商魂はいただけないことも多いが、今回だけは許してしまいたくなる。

 さて、では本物はどうなっているのかというと、これまたいろいろなヴァリエーションがあり、とっても楽しい世界が繰り広げられているのだ。

 画像1が、とりあえず私の部屋に出ていたレコから拝借したものだが、経年変化により色もさまざまに変色していて楽しい。
「お前、苦労したんだなあ」
と、擦り切れた横っ腹を思わずなでてあげたくなるような袋から、
「若造、まだ苦労が足りねえなあ」
と喝を入れたくなるような袋までさまざまである。
 真ん中の穴の部分には、
@初期には薄い透明のビニール素材
A60年代中期以降は半透明の紙のような素材
が使われている。どうも’65〜66当たりのプレスに境目がありそうだ。
 さて、袋には画像2のような文字が印字されている。
「重要→あんたのレコードの手入れをちゃんとしなさいよ。
 レコード針は定期的にチェックしなさい。
 ・・・擦り減った針じゃしょぼい音しか再生しないわよ。
 ・・・折れた針なんか使った日にゃ、あんたの大事なレコードに致命的ダメージを与えるわよ。」

 と、現代のオーディオ愛好家なら
「馬鹿にするでないよ」
と逆切れされそうなせりふである。しかし、’60年代の一般家庭において、レコードの手入れの方法などというものが徹底されているべくもなく。このような内容の注意書きを載せる必要もあったということであろう。


 さらに、この注意書きの斜め下には、さらに画像3の言葉が。

 「
EMITEXのクリーニング・クロスをお使いなさい。
 
あなたの大切なレコード君を守ってあげるわよ。
 どこで買えるかって?・・・そうねえ、すべての信頼できるレコード屋にいけば、
たいがい手に入るわよ。


 てなもんである。
 このせりふから、この袋を
「EMITEX」袋と呼ぶお人もいるくらい、レコード界では超有名なフレーズなのである。

 私は、この「EMITEX」の存在が気になって仕方がなかった。
 EMI社が開発したレコード拭き・・・なんと由緒正しいことか。
 しかし、なかなかそこらではお目にかかれないのである。
 しばらく捜索した結果、画像だけが2つ手に入った。惜しげもなくお見せしよう。
 ※といってもネット上の拾いものなので、勘弁していただきたい。

まずこれが一つ目。
60年代のものらしい。
袋をよく観察すると、
「黒いベルベットの側だけ使え」
と書いてあることに気づく。
しかし、現物には黒い面がなく。
ただ単に「シリコンクロス」みたいな布が・・・
この時点で「フェイク」と気づいてしまうが、
袋は本物だろう(笑)
袋だけでもいいからほしい。
 このような袋に入れられた布が、イギリスの有名レコード店で売られていたのだ。

 次の画像は、
 さらに60年代中ごろの、進化したEMITEX。その名も、
「SUPER EMITEX」である。
 こちらには、ちゃんと黒いベルベット面が存在しているようなので、本物に間違いなかろう。しかし、袋の下には、
「世界でもっとも偉大なるレコード会社」
と、自分(EMI)をたたえるスローガンまで入っており、ややファシズム的印象すら覚える。
 とにかく、当時総合音楽産業を目指していたEMIにとっては、いかにいい音でレコを聴いてもらうかということも研究の対象となっていたのは確かであろう。それがこのような製品を生み、それを広告するインナーが必要になった理由なのであろう。
 録音技術や、レコードのカッティング技術が世界最高の水準に達していたという事実も含め、これらはひとえに
「いい音をみなさんに届けたい!」
という、EMI社員たちの純粋な願いの賜物である(笑)。

 さて、話題を袋に戻そうか。
 袋の片面の左下には
「Patents Applied For(特許出願中)」の文字。
 これぞ、まさしく
あの有名なギブソン・レス・ポールに搭載された伝説のピックアップ、PAFと同じである(笑)。
 ちなみに、いつまで出願中だったのかは知らないが、すくなくとも1967年(サージェントペッパー)のインナーの時点でもまだ「PAF」だったので、かなり認めてもらうのに時間がかかったようだ。
 
特許庁というのは意外と意地悪な組織である。

袋の右下には生産国をあらわす文字が入るが、
←はじめのうちは「GREAT BRITAIN」であったものが、
60年代中期に「ENGLAND」に変わっている。→
 レコードのレーベル面も、同じような時期に変化があるので、国を挙げて表示を変更するような法律でもできたのだろう。きっと、IRAなどアイルランドの独立を狙う人々の動きが活発化する中で、グレートブリテンという限定的な表示ではあまりよくないのではないか、などという社会的な要因があったのだろう。

ということで、インナー袋について書いてみた。
まだまだほかにも突っ込みどころは多いと思うが、
ぜひみなさんもインナー袋を大いに楽しんでもらいたいものである。