2010年2月 「ポールのリッケンバッカー・セッティングは?」 

 1965年からポール・マッカートニーがスタジオで使いはじめたリッケンバッカー4001S。
 その後、各数の名曲に使用され、それらの曲とともに、ヘフナーとはまた違ったベースの音色をわれわれの記憶に刻み込んだのであった。
 がしかし、実際、ポールマッカートニーはあの扱いにくいベースをどのようにセッティングして音作りをしていたのであろうか?このような問いにはなかなか答えが出ていないのが現実である。

 そこで、画像として残されているものから、ポールマッカートニーの当時の音作りを推理しようと思う。
 今回は、左にある「リボルバー」録音当時のリッケンバッカー画像から、彼の音つくりの工夫を読み解こうと思う。

 彼のリッケンバッカーは1964年1月、アメリカに初めて渡ったビートルズにプレゼントすべく
(もちろん、大きな見返りとしての宣伝効果を含めて)FCホール氏らリッケンバッカー社の人々が送り込んだ刺客である。
 ジョンは古くなってどうにもならなくなった325を注文し、ジョージは12弦の360/12を受け取りご満悦。だがポールははじめこのベースの受け取りを拒否。どんな理由か知らないが、広告塔代わりに利用されるのが嫌だっただけかもしれない。後に結局は受け取ったのだから、音が気に入らないというような根本的な理由ではなっかのであろう。

 話をセッティングに戻そう。この写真から読み取れる彼のベースの状態をまとめると、以下のとおりになる。
@ピックアップセレクターは下向き。
Aリアのピックアップのボリュームとトーンはフル10(と推測される)
Bフロントのピックアップの上側のポットはフル10・下側のポットは半戻し程度。

これを、右利き用の4001だと仮定して説明すると、こうなる。
@ピックアップはリアだけを選択。
Aリアのピックアップのボリューム(下側)とトーン(上側)はフル10。
Bフロントピックアップのボリューム(下側)は半戻し、トーン(上側)はフル10。

しかし、ここで根本的な疑問が出てくる。
まず、リアのピックアップをセレクトしているのに、
フロントのボリュームをいじっても、何の効果もないということである。この写真がたまたま…というのであれば偶然で片付けられるが、実はこれと同じようなセッティングで写っている写真はほかにも多数あるのだ。
そこで、わが師「スタンダード様」の所有なさっている70年の左利き用4001の例を当てはめて考えてみよう。
つまり・・・ポールの4001sは、
右利き用の回路をそのまま左利き用の楽器に取り付けている、という説だ。
ネックすら左利き用のテンプレートがなく、右利き用をそのままさかさまに取り付けたくらいである。ボディーは裏表をさかさまにすれば簡単にできるが、ポット・スイッチの類は取り付け前にすでに配線されたアッセンブリーとして在庫されていたであろうことを考えると、可能性としてはかなり高い説である。
そうすると、先ほどの解読は実際にはこのように変わるのである。
@ピックアップセレクターはフロントだけを選択。
Aリアピックアップのボリューム(上側)とトーン(下側)はフル10。※さっきと上下が逆。
Bフロントピックアップのボリューム(上側)はフル10、トーン(下側)は半戻し程度。
これならば、画像と機能が矛盾のない形であることがわかる。
 実際にリッケンバッカーで弾かれたと思われる曲を聴いてみると、音作りは以外にもやわらかめで太い音を狙っていることがわかる。
 フロントのトーンを絞りながら、指弾きやピック弾きでアタックに変化をもたせる、このような感じでヘフナーからリッケンバッカーへの乗換えをうまく乗り切ったのではないだろうか。実際、ヘフナーでさえセレクターをフロントのみにして、
「太くてベースらしい音がするから」と言い放った御大である。リッケンのリアピックアップだけではきっとトレブリー過ぎてお気に召さなかったのではないだろうか。